こんなにも静かで、こんなにも丁寧な建築物の解体を、
あたしゃほかに知らない(・・・って、なんつーおおげさな;)。

・・・でもさ。

でも、言葉にするなら、その一言。
この一言なんだよ。
・・・マジで。

小さい頃には、遊んだこともちょっとだけあったおじさん家が、取り壊して新築することになったらしい。
これまででも、何度も建物の解体の現場を見てきたけれども。

おじさんは、知り合い(もしかすると、子供達?・・・っつっても、あたしより年上とかだけど;)ら数人と、1台だけのそれほど大きくない重機でもって、長年暮らしてきた家を、自ら解体していった。

まず家の中を、すっかり空っぽにして。

ガラスは、できるだけ外していって。

屋根瓦も、一つ一つ剥がしていって。

木の柱なんかも、外していって。

ほぼ、これ以上バラシようがないんじゃないかしら・・・っていうくらい、
人の手で丁寧に丁寧に。

おじさんは、亡くなったおばさんと住んだこの家を。
子供達と暮らしたこの家を。

何十年前かの、もとの空き地へ。

少しずつ少しずつ、戻していった。

まるで、積み木の山から一個一個、積み木を取り除いていくように。

だから、重機を動かすのは、本当に必要最低限。
機械のチカラを使って破壊するのは・・・そう、
外壁くらいだったんじゃないかな。

あれほどにイライラさせられない、静かな建物の解体を
あたしは他に知らない。

幼馴染のAちゃん家も、はす向かいのOさん家も、
そしてかつてのあたしの家も。

重機は狂ったように牙をむいて、
バリバリ、メキメキと、
思い出も感傷もなにもかもを
無情に引き剥がして破壊していったのに。
まるで生傷を引っかくみたいに、
すべてを壊しつくしていったのに。

例えるなら、おじさんは
周りに迷惑がかからないように、
イライラしないように、
騒がないように。
濡れタオルで静かに静かにふやかしておいて、
ちまちまちまちま、
ピンセットで端から破片を拾っていって。

そして最後に。

骨だけになってしまったときに
さほど力任せにすることなく、
ヒョイッ、パキパキパキッ、と。
そんでくしゅくしゅに一つにまとめて、

『はい、おしまい』

そんな風な、住まいの終い(しゃれじゃないYO!;)だった。

もう、少しのコンクリの塊と、土の山だけ。
動物が丸くなって眠ってるみたいに、
敷地の真ん中で、小さくまとまっている。
ほんの数日前まで、
ヒトが生きてそこで生活をしていたのになぁ。

今夜は、いっそう冬に近く、
すっかり寒くなってしまってる。
灯りの消えた、ヒトのぬくみの消えた、
さみしくて、冷たくて、真っ暗な
おじさんと、おじさんの家族の、
かつて暮らしていた、その土地・・・。

・・・でもさ。
また新しい建物が、建つんだろうね。
またそこで、
新しく住む人々の営みが、始まるんだろうね。
おじさんの、長い家族と建物の歴史は終わったけれど
これからまた、この先に
新しい家族と建物の歴史は、始まるね。

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